オレってひどいやつなんだよ。
だからさ、だからさ、そんな風に綺麗に笑わないでよ。
どうしたらいいか、わからなくなっちゃうから、さ。
彼女の手にはマメやタコが出来ていて、その努力がどれだけのものかを窺わせる。
年頃の女の子だ。
着飾ったり、他愛もないおしゃべりに興じたり。
本当はそうさせなきゃいけないことはわかっている。
わかっているのに、オレたちは君を神子として担ぎ出す。
兵士の士気はあの可憐な少女が姿を現すことで格段に上がる。
怨霊を浄化する神の加護と、彼女自身の強さによって。
「あ、景時さんっ」
明るい笑顔に、どれほど救われているか。
救われる資格なんてオレにはないのにね。
「お疲れ様〜、望美ちゃん。今日も君のおかげで何とか勝利をおさめられたよ〜」
俺に出来るのなんてせいぜいこうやって気休めを言うくらい。
「そ、そんなことないですよ!」
あわてて大きく手を振って否定する。
そんな謙虚で飾らないところも、人を惹きつけるのだろう。
「景時さんのほうこそ、今日も、噂されてましたよ。さすが梶原様だ、梶原様の立てる戦略ならば安心出来るって」
「えぇ!?…誤解だよ、望美ちゃん。オレなんか」
自分でも、嫌になる。
どうして、オレは、こうなんだ。
「うわっ、にゃ、にゃにしゅりゅにょかにゃ」
「なんか、じゃ、ないです!」
望美ちゃんの両手に頬を挟みこまれる。
「…ありがとう」
すぐに緩められた手は、それでも離されることなく、彼女の暖かさを伝えてくる。
「でもね、オレは、君が思ってるようなイイヒトじゃないから」
その言葉に、気高い視線が向けられた。
「オレはね、裏切り者だし、卑怯な手をいくつも知ってて、ずるいこともたくさん考え付いて、本当に、ひどいやつ、なんだよ」
「景時さんが、ひどいやつ、ですか…」
俯けられた視線。失望されただろうか。
「うん、ごめんね」
「いいえ」
「え?」
視線は上げられ、微笑う。
「私、もっとひどい人間、知ってますから」
「望美ちゃん」
「ひどいんですよ、自分のことしか考えてないんです。自分に大切なものがあるから、いろんなもの、いろんなことを捻じ曲げて、自分の思う通りにしなきゃ何度でもやり直して」
微笑っているのに、それはどこまでも強い瞳だった。
「それは…」
「私です」
オレから、手が離れた。
「私は、ひどい人間なんですよ。でも、だからこそ、捻じ曲げてまでも守りたいものを守って見せます」
「…望美ちゃんは、ひどい人間なんかじゃないよ。ひどい人間はそんなにまっすぐな瞳をしてるわけがない」
そう、オレのように。
臆病で、情けない、力のないオレみたいに。
「そうやって、優しいから…」
「の、望美ちゃん!?」
瞳から涙がこぼれた。
オレが、泣かせてしまった。
それでも。
「大丈夫です。今度こそ、守って見せますから」
彼女は、笑う。
どこまでも、綺麗に。
強く。
臆病なオレを奮い立たせるように。
「そっか、じゃあ、オレも、頑張っちゃおうかな〜」
せめて、守ろうとする君の力になれたらいい。
「…っ、はい!じゃあ、一緒に、頑張ってください」
「御意〜ってね」
その笑顔を少しの間でいい、守りたい。