思い出すのは数年前の今日のこと。
たった一人でデート。
男のいない寂しい女の子。
そう見えたでしょうね。
けど、違ったのよ。
私はきちんとデートをしてた。
そりゃ、腕を組むこともキスすることも出来なかったけれど、私の中ではなかなか悪くない思い出になってるわ。
まぁ、ちょっとしたハプニングがなかったといえばウソになるけれど。
あんなの、小さな事よ。
私に取り付いた幽霊との初めてのデート。
楽しかったわ。
大きなプレッシャー。マスコミからのバッシング。
色々あった、その頃の私。
ピートがいなかったら、私はつぶれてたかもしれない。
とても、支えられた。
感謝、してる。
「でも、それとこれとは別よね」
世界のプリンセスワンダーこと桜野タズサを十分も待たせるってどういうことかしら、ピート・パンプス。
何のために生き返ったの?私に一生仕えるためでしょう!?
「まったく、帰ってやろうかしら」
それはそれでヨーコに何を言われるかわかったもんじゃないわ。
今日は彼氏と二人でお留守番。そこを邪魔するほど無粋じゃないし、何より今日は、クリスマス。世間なんて微塵も気にしないけれど、イルミネーションが街を飾り立て一番綺麗に輝く夜を好きな男と過ごしたいって気持ちは私だって持ち合わせているのだ。
「何やってんのよ、ピート」
わざわざ練習を休んだ意味、わかってるのかしら。
「タズサ!」
「遅い」
背後から掛けられた声。振り向くことなく言い切る。
「ごめん、その、色々と間違えられて」
「は?何に…、あんた、なんて格好してるの?」
振り返って見たピートの格好。
「何って、サンタ」
その通り。赤い帽子に赤い服、黒いブーツに白い手袋。大きな袋を持っている姿はどこからどう見てもサンタクロース。惜しむらくはひげがないその一点だけだろう。
「そりゃ、見ればわかるわよ。一体どうして」
「そりゃあ、タズサのためさ」
にっこりと一言。嬉しさで少し顔や緩むけど、そこは鉄面皮。
「恋人はサンタクロース。これは定番だろう?」
「どれだけ昔のクリスマスソングよ!」
「お気に召さなかったかな」
では仕方ない、とピートががさごそと袋をあさる。
「メリークリスマス、プリンセス」
そういってピートが取り出したのは小さなティアラ。
「次のプログラムはシンデレラかしら?」
「それもいいね、それの王子役やりたかったんだ」
「もう少し滑るのが上手になってから言う事ね」
それでも、私の機嫌は徐々に直る。やっぱり、カウンセラーにでもなったらいいのよ。私専属の。
「うん、ペアのほうはもう少し先じゃなきゃ無理だね」
そういったあと、ピートは再び袋をあさっている。今度は何が出てくるのかしら。
「けど、こっちのならいいんじゃないかな、と思うんだ」
ピートに手を取られる。ダンスでも踊るかのように。
「?」
「私と結婚していただけませんか、プリンセスタズサ」
言葉とともにはめられる指環。
「サンタがプレゼント貰って、どうするのよ!」
「それが返事?」
ああ、もう、悔しいわ。
どうせあんたはわかってるんでしょ!
「断るわけないでしょ…、あんぽんたん」
「良かった。奇跡を信じてサンタにまで扮した甲斐があった」
「奇跡じゃないでしょ」
あんたとあたしがここにいて、お互いがお互いを好きになって。何億分の確率かしら。
「運命だわ」
刻んでおかなくては。
新しい、タズサの十戒。
『汝、聖夜を侮るなかれ』
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