幸せな二人

ねぇ、気付いていますか?

ほんの些細なことが、私を幸せにしていること。



あなたは、きっと変わってないって言うんだろうな。

でもね、そんなこと、ないと思うの。

例えば、一緒に歩いてる。

待ち合わせ場所から、ここまでの距離。

以前の先輩なら、車を使った距離ですよ。

それがこうして、並んで歩いて、…手を繋いで。

ああ、幸せだと、そう感じる瞬間が何度あることか。

さっきお茶した時だって。

貸切でもないし、静かでもない、それでも、二人で楽しくお話をして。

お互いのケーキを少しずつ食べ合って、恥ずかしかったけど、あーんって食べさせたりもして。

夢じゃないかと確認するときがどれだけあることか。

少しだけ、変わった先輩。

すごく変わった、二人の関係。 でも、本当は、何にも変わってないのかもしれない。

私は、先輩が好きで、その想いが、先輩に伝わって、先輩も、私を好きだと言ってくれたけど。

先輩のことを好きになる気持ちは大きくなっていっているんだから、そんなこと、ないよね。

「夢野くん」

「あ、は、はい、なんですか、先輩」

「これ」

「え……」

薔薇の、真っ赤な薔薇の花束。

「えっと」

「気に入らない?」

「いいえっ」

朝、見かけた薔薇が綺麗だった。

でも、こんな風に先輩からもらえるとは思わなかった。

どうしよう…

「嬉しい、です…」

「良かった。綺麗な薔薇だったから、喜んでもらえると思ったんだ」

嬉しくて、幸せすぎて、魔法をかけられているみたいだ。

私、こんなに幸せで、いいのかな…。

「泣くほど喜んでくれたって、自惚れてもいいのかな」

先輩が、涙を拭ってくれる。

夢みたいに、幸せで。

「……はいっ」

でも、ちょっと。

「幸せすぎて、怖いくらいです」

「ううん。これぐらいじゃ、足らないよ。僕が、歌を泣かせた分には、到底」

「…先輩」

そんなことない、絶対、余りある。

先輩に、これだけのことを言ってもらえるのだから。

「でも、ね。僕も、少し、怖いんだ」

「えぇ!?だ、大丈夫です!私が、先輩を守ってみせますから!」

「夢野くんが?」

「はいっ」

どんな恐怖からも、そ、そりゃ、頼りないかもしれないけど。でも、けど。

「嬉しいけど、それは、僕の役目かな。恋人として、ね?」

「でもっ、先輩のこと、守りたいんです。私じゃ、力不足ですか?」

「違う。それに、僕の恐れているものは君と同じように物質的な恐怖じゃ無いから」

「それなら、尚更です!…先輩の心は、私が支えます。守って、みせます」

優しい、先輩の心は、私が守る。

「ほら、だから」

「え?」

「僕も、幸せすぎて、怖いんだ」

「せん、ぱい…」

「だから、確かめさせて」

抱き締められる。先輩の、腕の中。 「大丈夫、ですよ。私、ここに、いますから」

「うん」

「私、幸せです。柊先輩」

先輩は、私をほんの些細なことで幸せにしてくれる。

私も、先輩にそんなことが出来るようになったらいいな。

今の幸せなこと気持ちを、少しでも返せるように。