「やめてください」
私を守る。
どれほど嬉しい言葉だろう。
胸が熱くなる。
優しさに、愛しさに、切なさに、絶望に。
「…望美ちゃん?」
「私のことなんて、守らなくていい!」
なんてことを言うんだろう。
この言葉では、景時さんを傷付ける。
でも、止まらない。
「…ごめんね、そうだね、オレなんかじゃ」
「違う!」
これじゃ、ただの駄々っ子だ。
「景時さん…?あなたの代わりは、誰もいないんです」
何度、どれほど、どれだけ、あなたを想ったことでしょう。
「望美ちゃん」
「私が死ぬなら構わないの」
私は知ってる。あなたが、何度、命を遂したか。
私の、ううん、それは私の驕り、私たちのために幾度、命を落としたか。
「何を言って…」
「景時さんがいなきゃ、生きていてくれなきゃ、意味がないの」
そのたびに、私は運命を呪った。
そして、逆鱗を使い、変えてきた。
どれほど変えても、景時さんは一人で背負い込んで、一人で苦しんで、一人で戦って。
そう、この世界に来ても、それは終わらなかった。
「また…」
あなたは、知っていた。
そして、誰も傷付かないように、自分だけを矢面に立てた。
「私が怖いのは、私が震えていたのは、景時さんを失うのが怖いからなのに!」
震えだすのは、失う痛みを思い出すから。
赤く燃える屋島、雪深い奥州、遠く北へ逃げたこともあった、そして、今。
私が、あなたを、傷付ける…。
今ここにある優しさを失うのが、何よりも怖いのだと、景時さんは知らない。
塗り替えてきた記憶の全ては、私しか持っていないから。
「それでも、オレも、君を、守りたい…」
「私は、景時さんを、守りたいです…」
そのために、あなたの幸せに笑う姿が見たいために、運命をやり直したのだから。
私は青い水晶なんて要らない。
茶吉尼天が私の中に根を張り、力をつければ、景時さんを傷付けてしまうのに。
それでも、私は私に戻ろうとする。それを留めるすべを、私は知らない。
ああ、どうか、優しすぎるこの人を、傷付けずにいられますように。