聖なる夜に


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「黒崎くん」
真っ黒な空、お月様とお星様は煌めいて。
歌であった、こんな気持ち。
「今日は、ありがとう」
上を向いていたかった。
けれど、この言葉は彼のほうを向いてきちんと言いたかったから。
やっぱり、涙が零れてきてしまった。
「誘ってくれて、嬉しかった。本当に、ありがとう」
零れだしたら、止まらなくなって。
嬉しいのに、嬉しいから。
どうしようもなくて。
「井上…っ」
困らせてる、困らせたいわけじゃない、笑わなきゃ。
「…っ、あはは、ごめんね、泣いたりなんかして、なんか、感動して…え?」
ぐるりと。
彼の大きなマフラーはあたしを巻いた。
目を。顔を。視界全てを、覆う。
「あったけーだろ」
「…うん」
「安心するだろ」
「うん」
「ほっとするだろ」
「うん」
彼の言葉にこくん、こくんと頷きを返す。
「泣いてもいいんだぞ」
…ああ、やはりあなたは誰よりも優しい。
言葉に抗わず、涙は零れた。
久しぶりに独りじゃないクリスマスの夜。
あたし、こんなに幸せでいいのかな。
「…あったかい…」
巻かれたマフラーも、黒崎くんの言葉も。
「ありがとう、もう大丈夫」
マフラーを下げて、顔を出す。きっと目はうさぎのように真っ赤に違いないけれど。
「どういたしまして」
「あの、マフラー」
「巻いとけ」
悪い気もしたけれど、ここは好意に甘える事にした。
涙で少し冷たくなってしまっているから。
「あとで、洗って返すね」
「…おう」
今日はとても素敵なクリスマス。
「黒崎くんはサンタさんだね」
「は?なんだ、いきなり」
「だって、こんな素敵な一日をあたしにくれたんだもん、サンタクロースだよ」
最高のクリスマスプレゼント。
好きな人と一緒にいられたクリスマス。
「……、じゃあ、もひとつ、サンタからプレゼントだ」
ポケットから取り出されたのは小さな箱。
「メリークリスマス」
「え…」
ポン、と手の平の上に載せられる。
「あ、ありがとう…じゃなくて、その、あたし、」
どうしよう、プレゼント、用意してなかった。
「あァ、気にすんな。誘ったの俺なんだから、井上は気にしなくていいんだ」
「でも…」
「じゃあ、俺も、貰っていい?」
言われて、触れる唇。
「サンキュ」
「え…あの…」
今のは、夢でも、幻でもないよね。
「来年も、一緒に過ごしたいな。クリスマス」
「う、うん」
過ごしたい、黒崎くんと。
「出来たら、二人きりで」
「……はい」






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